防 爆
防爆について可燃性ガスや可燃性液体の蒸気が存在する工場やプラントでは、これらと空気(酸素)と混合され何らかの点火源に触れることで爆発・火災が発生します。防爆とはこの点火源を無くすための技術的対策(防爆構造)になります。
可燃性ガス/蒸気 + 空気(酸素) + 点火源(電気機器等) = 爆発・火災
火災、爆発を引き起こす3要素
・可燃物:可燃性ガス/蒸気、粉塵など
・酸素:物質によって爆発濃度範囲が異なる 例)空気中の水素の爆発濃度:4~75 vol%
・点火源:火気、火花、静電気、摩擦など
日本国内防爆規格(構造規格/整合指針)、海外防爆規格について
日本国内で使用する防爆構造電気機械器具は厚生労働省が定めた「電気機械器具防爆構造規格」の認証を得なかればなりません。
規格の検定基準は以下になります。
1)ガス蒸気防爆の主な規格は二種類あります。
・工場電気設備防爆指針(ガス蒸気防爆2006) 通称:構造規格
・国際整合防爆指針(Ex2015)(Ex2018) 通称:整合指針
2)日本国内において粉じん防爆の規格は以下になります。
・工場電気設備防爆指針(粉じん防爆 1982)
3)海外防爆規格に認証されていても厚生労働省の検定に合格していない電気機械器具は日本国内では使用できません。
海外防爆規格の例
・IECEx:国際規格
・ATEX:欧州規格
・UL:アメリカ
日本防爆の危険箇所の法的根拠
引火性の物の蒸気又はガスが爆発の危険のある濃度に達するおそれのある箇所の分類の方法及び範囲の判定の方法に関する運用について労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第280条において、引火性の物の蒸気又はガスが爆発の危険のある濃度に達するおそれのある箇所(以下「危険箇所」という。)において電気機械器具を使用するときは、防爆性能を有するものでなければ、使用してはならないとしている。
危険箇所は、電気機械器具防爆構造規格(昭和44年労働省告示第16号)第1条第15号から第17号までのとおり特別危険箇所、第一類危険箇所及び第二類危険箇所の3種類に区分され、これらの分類の方法については、平成20年9月25日付け基発第0925001号「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行及び電気機械器具防爆構造規格及び昭和四十七年労働省告示第七十七号の一部を改正する告示の適用について」第2の2(3)において、「JISC60079-10によること」とされている。
防爆の関連法規 は⼯場の⽕災・爆発を防⽌するために下記3つ法律があります。
1.労働安全衛⽣法(厚⽣労働省所管)
1)労働安全衛⽣法 (型式検定)第四十四条の二
第四十二条の機械等のうち、別表第四に掲げる機械等で政令で定めるものを製造し、又は輸入した者は、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働大臣の登録を受けた者(以下「登録型式検定機関」という。)が行う当該機械等の型式についての検定を受けなければならない。
2)労働安全衛⽣規格 (爆発の危険のある場所で使用する電気機械器具)第二百八十条
事業者は、第二百六十一条の場所のうち、同条の措置を講じても、なお、引火性の物の蒸気又は可燃性ガスが爆発の危険のある濃度に達するおそれのある箇所において電気機械器具(電動機、変圧器、コード接続器、開閉器、分電盤、配電盤等電気を通ずる機械、器具その他の設備のうち配線及び移動電線以外のものをいう。以下同じ。)を使用するときは、当該蒸気又はガスに対しその種類及び爆発の危険のある濃度に達するおそれに応じた防爆性能を有する防爆構造電気機械器具でなければ、使用してはならない。
3)電気機械器具防爆構造規格
4)厚⽣労働省 通達
注:防爆検定は、登録検定機関「産業安全技術協会(TIIS)」が唯⼀の検定機関でしたが産業安全技術協会(TIIS)以外に海外のATEX-NB/ExCB 3社と国内試験機関1社が登録され防爆検定合格証の発⾏が可能になっています。こ ここで、海外で防爆検定を受けているものでも、⽇本の「登録型式検定機関」の認証がなければ、法に適合し た防爆機器にはなりません。日本国内の防爆エリアで使用する事はできません。
2.電気事業法(経済産業省所管)
1)電気安全の観点から危険場所における電気設備について規定している。
電気設備技術基準 69 条 /解釈 176 条
2)電気機械器具は、電気機械器具防爆 構造規格に適合するものであること。
3.消防法(総務省所管 各⾃治体消防署)
消防関連法規では「電気設備は、電気⼯作物に係る法令の規定によること」等の表記で、電気設 備に関する法律(電気事業法)との紐付けがなされている。
1)危険物の規制に関する政令
2)危険物の貯蔵所、取扱所の法令
3)設置許可申請、完成検査
危険箇所の3分類可燃性物質を取り扱う工場において、大気中に放出または漏洩する可燃性ガス・可燃性蒸気と空気(酸素)が混合して爆発の危険のある濃度に達するおそれのある箇所のことを「危険箇所」と呼びます。
ガス蒸気防爆においては、危険度が高いエリアから順にゾーン0(特別危険箇所)、ゾーン1(第一類危険箇所)、ゾーン2(第二類危険箇所)の3つに分けられます。粉塵防爆ではゾーン20、ゾーン21、ゾーン22の3つに分類されます。
Zone0(特別危険箇所)
通常の状態でも爆発性雰囲気が連続または長時間存在する場所
目安:爆発雰囲気の年間生成時間が1000時間以上
電気機器類等の使用は避ける事が望ましい
Zone1(第一類危険箇所)【(米)Class、Division1】
通常の状態で爆発性雰囲気をしばしば生成する可能性がある場所
目安:爆発雰囲気の年間生成時間が10~1000時間
<場所の例>
・ふたの開閉などによって可燃物を放出する開口部付近
・屋内又は通風、換気が妨げられる場所で、可燃物が滞留する恐れのある場所
・点検・修理作業のために、可燃物を放出する開口部付近
Zone2(第二類危険箇所)【(米)Class、Division2】
通常状態で爆発性雰囲気生成することはなく、たとえ生成しても短時間しか存在しない場所。
目安:爆発雰囲気の年間生成時間が1~10時間
<場所の例>
・誤操作による可燃物放出の恐れのある場所
・異常反応等で可燃物を漏出する恐れのある場所
・強制換気装置が故障した際、可燃物が滞留する恐れのある場所
・1種危険場所の周辺・隣接する室内で、爆発性雰囲気がまれに侵入する恐れのある場所危険度区域(防爆ゾーン(Zone 0,1,2))の範囲
可燃性ガスが発生する可能性のある危険なエリアまたは領域の範囲は、放出速度と、ガスの特性、放出形状および周囲の形状などの他のいくつかの要因によって異なります。ここで危険度区域の範囲は,ガス状の爆発性雰囲気が存在し,爆発下限界未満の大気中濃度に拡散するまでの推定又は計算による距離の影響を受けます。爆発下限界未満に希釈されるまでの可燃性ガス又は可燃性蒸気の拡散空間領域を評価するには専門家の意見を求めることが必要です。詳細は欧州規格 EN-IEC 60079-10-1(JIS C 60079-10) を参照してください。
防爆構造防爆構造には種類があり使用に適している危険箇所がそれぞれ異なります。
防爆記号には「構造規格」と「整合指針」の2種類のパターンが存在します。
「d2G4」は構造規格、「Ex ia IIB T4」は整合指針を表します。 前者は従来の国内規格、後者は国際規格IECに準拠した防爆記号です。
耐圧防爆(記号:d)
全閉構造の内部で可燃物の爆発が起こった場合に容器がその圧力に耐えるかつ、外部の爆発性ガスに引火するおそれのないようにした構造
油入防爆(記号:o)
電気機器の火花やアークが発生する部分を絶縁油に浸す油面上に存在する可燃物に引火するおそれがないようにした構造
内圧防爆(記号:f)
容器の内部に窒素などの不活性ガスを封入して内圧保持することによって可燃物の侵入を防止した構造
安全増防爆(記号:e)
正常運転中には火花または高温を発生することのない電気機器に適用、異常時の火花または高温が発生する可能性に対し、安全度を増加した構造
本質安全防爆(記号:i)
正常または事故発生時に生じる電気火花、高温部により可燃物に点火しない、さらに、公的機関において試験その他によって確認された構造
特殊防爆構造について(記号s)
「耐圧防爆構造」「油入防爆構造」「内圧防爆構造」「安全増防爆構造」「本質安全防爆構造」以外の構造で、爆発性ガスの発火を防止できることが、試験等によって確認された構造です。
非点火防爆構造について(記号n)
正常運転中及び特定の異常状態で、周囲の可燃性物質が存在する雰囲気を発火させる能力のない電気機器に適用する防爆構造です。危険区域としてのリスクが低い第2類危険箇所(ゾーン2)での使用に限定された防爆構造です。「簡易防爆」とも呼ばれ、防爆としての保護基準を低減することにより、構造や要件の緩和が図られています。
樹脂充填防爆構造について(記号m)
火花又は熱により爆発性雰囲気を発火させることができる部分が、運転中に発火源とならないように、樹脂の中に囲い込んだ防爆構造です。電気部品や電子回路などを樹脂で覆うことで防爆化が可能です。樹脂が筐体を兼ねることもでき、小型化が可能です。他の防爆構造との組み合わせが容易にできることも特長です。ただし、充填用樹脂の使用環境への適合性を考慮する必要があり、樹脂が筐体を兼ねる場合は静電気への考慮が必要になります。
火花のガス着火性とすきまの火炎逸走性の関係
火花のガス着火性と耐圧防爆構造におけるガスの火炎逸走性が関連する。火炎逸走性の大きいガス(例:水素)は火花による着火限界が低く,逆に火炎逸走性の小さいガス(例:メタン)は着火限界が高いという関係が ある。
ATEX/IECEx Marking
語句の説明
- ATEX マーキング
ATEX/IECEx 規制に準拠するには、危険区域で使用されるすべての機器と保護システムに、特定のマークを付ける必要があります。 これらの文字/数字は、ATEX/IECEx 規制に関連して製品が満たす正確な基準を指定し安全に動作する環境のタイプを決定します。 - 機器グループ(Equipment Group)
2 つの機器グループがあります。「グループ I」は鉱山に関係し、非常に揮発性のメタンガスと粉塵が存在するために非常に制限的であり、「グループ II 」は他のすべての上産業に関連しています。 - ATEX カテゴリ(Equipment Category)
3 つのエリア カテゴリ タイプがあり「カテゴリ 1」 は非常に高いレベルの保護を必要とし、爆発の永続的または長期的なリスクがあるエリア (ゾーン 0) として定義されます。 爆発性混合物が空気中に存在する場合 (ゾーン 1)、および爆発性混合物が形成される可能性はわずかですが、通常レベルの保護が必要であると指定されたカテゴリー 3 (ゾーン 2)。 - 保護の概念(Type of protection, Equipment Protection Level)
保護の概念は危険区域で使用されている機器が爆発を起こさないようにする手段を指します。 制御不能な発火を回避するために利用される基本的な方法は 4 つあります。それは、可燃性物質の排除、構成部品の火花または高温表面の防止、爆発クエンチング(急速冷却)、およびエネルギー制限です。 個別にまたは組み合わせて適用することにより保護概念が製品に適用され、これを実現します。 - ガスのサブグループ(Gas Group)
ATEX 規格には、爆発性ガスと粉塵の分類があり「グループ I 」はメタンガスと石炭粉塵 (鉱業) を指し、「グループ IIA から IIC 」はガス、「グループ IIIA から IIIC 」は粉塵 になります。それぞれの分類に従って分類されています。 IIA/IIIA は最も危険性が低く、発火温度が最も高く、IIC/IIIC は発火温度が最も低く、最も危険になります。 - 温度分類(Temperature Class)
異なる物質は、異なる温度で燃焼する可能性があります。 燃焼温度が低いほど危険です。 したがって、爆発環境で使用される各機器は、発生する最大表面温度に従って分類されます。 装置の最大表面温度は、存在するガスの発火温度よりも常に十分に低くする必要があります。温度クラス T6は最高クラスでT6以外のクラスもカバーします。
ATEX/IECEx 認証番号末尾の「U」,「X」
EN/IECEx 60079-0 は爆発性雰囲気で使用する電気機器の一般規則について書かれています。
- 銘板に記載すべき事項
電気機器はその主銘版に必要事項を記載する必要があります。
*メーカー及び機器の名称
*商品コード
*Ex 記号:電気機器が1 つまたは複数の保護構造に対応していることを表します。
*保護構造の記号:例: Ex d, Ex p, その他
*電気機器が対応するガスグループの記号
*温度クラス
*シリアル番号
*認証機関の名前または頭字語
*認証番号 - 認証番号の末尾に記載される「U」と「X」
2.1「U」は Ex コンポーネントを意味します。
Ex コンポーネント とは単独で使用してはならない機器を意味します。認証された製品又はシステムに組み込んで使用する必要があります。 - 「X」特定の条件での使用許可を意味します。
電気機器を安全に使用するためには特定の条件を守る必要がある事を意味します。
認証番号の末尾にある「X」の文字は、技術者、管理監督者、メンテナンス技術者および検査員に機器の誤った使用の危険性とその結果としての爆発の可能性を回避するための注意の必要性を認識させる役割を果たします。
「X」を認証番号の末尾に付ける例を上げると、機器が正常に動作すると定義される標準設置環境は以下になります。
*温度: -20°C から +60°C まで。
*圧力: 80 kPa (0.8 bar) から 110 kPa (1.1 bar) まで。
*通常の酸素含有量、通常 21 % v/v の空気。
電気機器の正常動作を保証する為にはこの標準設置環境に特別な条件が必要になる場合があります。この場合は認証番号の末尾に「X」を付加して必要な制限を明確にする必要があります。
防爆区域のゾーニング(日本国内のガイドライン)
経済産業省はIoT機器を活用してプラント内のビッグデータを収集・分析・活用し、設備の予期せぬ故障やヒューマンエラーを防ぐ取組を進 める検討を行った。その結果、プラント内のZone2区域でドローン飛行やセンサーやタブレット等の電子機器の安全な使用が必要であり、そのニーズに対応するためにIEC規格を具体化した「プラ ント内における危険区域の精緻な設定方法に関するガイドライン」(以下参照)を作成した。 この防爆ガイドラインに従って現状の危険区域を再評価すれば、現行の防爆指針が定める保安レベルを低下させることなく、 危険区域を精緻に設定するこ とができるようになる。しかし、現状は事業者が判断に迷うことが多く実際のプラントで防爆ガイドラ インを用いた危険区域の再評価が進んでいない。 爆発リスク評価
危険区域分類の次に、より高い機器保護レベル (EPL) の機器の使用を必要とするか、又は通常必要とされるよりも低い機器保護レベルの機器の使用を正当化できるか検討する事が出来ます。EPL 要件は、適切な機器の選択を可能にするために必要に応じて危険区域分類文書および図面に記録することができます。
無視できる範囲(NE)のゾーンの検討
場合によっては、無視できる範囲 (NE) のゾーンが発生し、危険ではないものとして扱うことが可能な場合があります。 無視できる範囲(NE)のゾーンは、無視できる放出速度または無視できる放出量のいずれかを意味し、分散の量を考慮する必要があります。無視できる範囲 (NE) のゾーンは、爆発が起こったとしても、無視できる結果をもたらすことを意味します。ゾーン NE の概念は、EPL を決定するためのリスク評価の他の調整に関係なく適用できます。ゾーン NE 分類の基準は、次の要因に基づく必要があります。
- 着火しても、圧力波または飛散物(ガラスの破片等)を生じる十分な圧力にならない。
- 発火しても、周囲の物質から害や火災を引き起こすほどの熱が発生しない。
- 1 000 kPag (10 barg) を超える圧力で分配されるガスについては、特定のリスク評価を考慮する必要があります。
- ゾーン NE は、特定の詳細なリスク評価で別の方法で文書化できない限り、2,000 kPag (20 barg) を超える圧力で分配されたガスには適用できません。
ゾーン NE の一例は、平均濃度が LFL (爆発下限値)の 50 %/体積 であり、当該閉鎖空間の 0.1 m3 または 1.0 % 未満 (いずれか小さい方) の天然ガス雲(溜り)です。 他のガスの場合、ゾーン NE は、燃焼熱、最大爆発圧力、およびガスのメタンに対する最大圧力上昇率にメタンに使用されるパラメータを乗じた比率に基づいて考慮することができます。
注:放出等級(Zone)と異なるEPLを使用する場合はゾーンNE分類評価を行う必要があります。